1. 経済概況
アゼルバイジャン経済は独立前後、ソ連崩壊によって深刻な影響を被り、90年代前半にはアルメニアとのナゴルノ・カラバフ紛争や国内の政情不安のため経済の低迷状態が続いた。1994年9月、ヘイダル・アリエフ前大統領の下、カスピ海沖のアゼリ・チラグ・グナシリ(ACG)油田開発契約が国際コンソーシアム(AIOC)との間で締結され、「世紀の契約」と呼ばれた。以後、積極的な外資の導入により石油採掘量は増大、その波及効果は石油関連部門にも及んだ。GDP成長率は02年以降10%以上に到達し、ACG油田及びシャフ・デニス・ガス田の生産体制及び輸送体制が本格的に整備された後、高水準の経済成長を維持していたが、10年以降は、これまで牽引役となっていた石油・ガス部門の成長が一段落したことから、経済成長は鈍化傾向にある。
2.エネルギー
(1)石油
アゼルバイジャン経済の牽引役はエネルギー関連プロジェクトであり、その中心であるACG油田開発は、英BP社がオペレーターとなり、欧米エネルギー企業の他、我が国からは伊藤忠商事(権益4.30%)及び国際石油開発帝石(INPEX)(同10.96%)が参加している。同油田の可採埋蔵量は約54億バレルである。
一方、ACG海底油田開発以前から存在する陸上油田の生産は逓減傾向にあり、現在は同国の石油生産全体の約2割程度を占めている。
アゼルバイジャン産原油は、主に2006年6月に操業を開始したバクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)パイプラインを通じて地中海に送油され、石油タンカーによって各国に輸出されている。同パイプラインは総延長1,768㎞(アゼルバイジャン443㎞、グルジア249㎞、トルコ1,076㎞)であり、BP社の主導によるコンソーシアムの下、我が国からは伊藤忠商事(権益3.4%)、INPEX(同2.5%)が参加している。
(2)天然ガス
アゼルバイジャンは、2006年までガス需要の約半分をロシアからの輸入で賄っていたが、2006年末に商業生産を開始したカスピ海沖のシャフ・デニス・ガス田の開発により、翌年からはガス輸出国に転じた。シャフ・デニス・ガス田は、英BP社をオペレーターとして、現在開発第1フェーズにあり、2018年以降には第2フェーズの商業生産が開始される予定である。
シャフ・デニス・ガス田の天然ガスは、バクー・トビリシ・エルズルム(BTE)パイプラインを通じてトルコ方面に搬出されている。また、その他、バクーからロシア、イラン、グルジア各方面へのガス・パイプラインを通じて、これら周辺諸国及びトルコに輸出されている。
また、シャフ・デニス・ガス田第2フェーズを主要供給源とした、カスピ海地域の天然ガスを、トルコから欧州までロシアを迂回する形で輸出する「南回廊」計画がEUの主導により計画されている。2012年6月、トルコ領域のトランジット問題を解決するトランスアナドル・パイプライン(TANAP)について、アゼルバイジャン・トルコ間で政府間合意に達した。また、トルコ以西の「南回廊」のルートとして、「ナブッコ・ウェスト」計画、TAP(アドリア海横断パイプライン)計画の2ルートが検討されていたが、2013年6月末にTAPが選出された。アゼルバイジャン産ガスの欧州への輸送が一段と現実味を帯び、今後は、上記プロジェクトから選定された輸送ルートによって、2017年頃から欧州への輸出が実現する見込みである。
3.今後の課題
アゼルバイジャンでは、非石油分野の育成と地域格差の是正が課題となっており、政府は、農業、観光、運輸分野等への外資誘致を進める一方、電力、道路整備といったインフラ整備に注力し、投資環境の整備に努めている。
4.経済指標
08年 | 09年 | 10年 | 11年 | 12年 | 13年 | 14年 | |
GDP (億ドル)(名目) | 489 | 430 | 518 | 637 | 692 | 735 | 749 |
一人当たりGDP(ドル) | 5,603 | 4,874 | 5,798 | 7,003 | 7,491 | 7,912 | 7,986 |
GDP成長率(%) | 10.8 | 9.3 | 5 | 0.1 | 2.2 | 5.8 | 2.8 |
国家予算(歳出)(億マナト) | 85 | 124 | 123 | 171 | 176 | 198 | 184 |
石油生産量(百万トン) | 44.5 | 50.4 | 50.8 | 45.6 | 43.0 | 43.4 | 41.9 |
天然ガス生産量(億立米) | 234 | 237 | 263 | 257 | 290 | 294 | 297 |
出典:国家統計委員会、但し、石油・天然ガス生産量についてはSOCAR資料